トマス・モアのユートピア第2章[戦争について]

戦争を起こす要件

戦争や戦闘は野獣的行為として大いに嫌い呪っているし、戦争で得られた名誉ほど不名誉なものはないと考えている。戦争を起こすのは以下の四つの要件のいずれかの場合である。一つに自分の国を守るため、二つに友邦に敵軍が侵入してきた場合や、友邦が他の国から金銭的な損害を与えられた時、三つに、圧制に苦しめられている友邦国民を武力に訴えてでも、その虐政の桎梏(しっこく、束縛)から開放してやる場合である。そして、前述の外地に都市を作る時に先住民から土地の供用を拒まれた時である。

ただし、それら問題解決において、たとえ勝利をうることができても流血を伴ったものには、単に後悔するのみならずむしろ恥辱とさえ考える。反対に、巧みな策略を用いて敵を圧倒する事ができたときにはその喜びは全国民あげての一大祝賀会を開くほどの喜びようである。

戦略・戦術

彼らが戦争を起こす主な目的は要求事項の貫徹であり、その実現のためには徹底的かつ残酷なまでの報復を試み、二度と同じ事を繰り返させないようにする。

戦闘は、いくつかの段階を経ながら進められる。

まず、敵国の国民を金で買収し、国王やその取り巻きの首を捧げさせる方法(生きたままの方が報奨金は高い)。次に、敵国内に闘争を起こさせるか、敵の隣国から争いを起こさせる方法である。

他国の戦争を応援したり、自国自ら戦闘に参加したりする場合は、まず傭兵をどの国よりも高い賃金で雇う。そうすれば、もっとも強力な戦力が持てるだけでなく、そういった傭兵は、どんな危険なところだろうがお構いなしに進んでいくが、大方が生還しないので、結局報酬金の節約になるのである。この傭兵に、ユートピアの東方500マイルの所に住むザポレット人(喜んで身売りをする者)を好んで用いるのは、金のためには誰でも殺すといった極悪非道な連中を巣窟ともどもこの世界からきれいに除いて人類のために貢献しようとする信念があるからである。

傭兵の次には、戦争の原因となっている当の国家の兵隊を用い、その次には他の友邦諸国の援軍を用い、最後に自国の市民を戦線に参加させる。自国の兵隊は、まず喜んで戦争に行こうという志願者の中から選抜したものを参加させる。嫌がるのを無理に戦争に駆り立てた者を含まないのは、全軍の士気が落ちることを避けるためである。しかし、外敵が本土に侵入してくるようなときは、体さえ頑丈ならどんな臆病者でも前線に送る。最後の土壇場になって臆病者がにわかに勇猛な勇士になることも珍しくないからである。

また、婦人が良人(おっと)に従って出征したいというなら大いに歓迎し奨励されている。その場合に、妻のみならず子供達や親戚や一族郎党が周りを囲んで、血のつながりの中で多大に助け合うことができるからである。

ユートピア人は当初、自分たちは戦わなくてもよいようにあらゆる手段便法を講じているだけに、いざ自ら戦わねばならないとなれば、粘り強さと執念深さを発揮し、勇気を増しながら、やがて後一歩の退却より死を選ぶという気概にまで達するのである。国家のすぐれた法律制度の力によって、子供のときから骨の髄まで叩き込まれた高邁な精神が凛々たる彼らの勇気をいっそう強力なものにしている。

休戦協定が結ばれた後、敵国の領土を掠奪することはしないし、非武装の人間や一般大衆に指一本触れることはしない。戦勝した場合には、戦費はすべて敗戦国民の負担にして、自国ならびに友邦諸国の負担とはしない。賠償は現金で要求するのは一部に限られ、ほかは領土を要求し土地から生ずる莫大な収入を年々に手に入れることになる。こういう財源をユートピア人は多くの国々に持っており、そこから生じる余剰金は国庫におくられたり、相手国に貸し付けられたりする。領土の一部は友邦国に割譲される。ユートピア国は、外国から援軍をユートピア島に迎えるといった難局に一度も逢ったことはない。


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