トマス・モアのユートピア第2章[彼らの旅行、および巧みに説かれ、賢く論ぜられた事がら]

移動の自由と制限

居住都市内

自分の住んでいる都市に属する田園や田舎を散歩したい場合は、父親の快諾と妻の承諾が必要である。ただし、どんなところへいっても、やらなければならない自分の仕事を済まさないと食事にありつけない。ぶらぶらと時間を空費する自由は許されていないのである。

他の都市への旅行

他の都市に住んでいる友人を訪問したいとか、その都市を見たいとかいう希望があれば、よほどの故障がない限り、家族長や主族長の旅行許可を得ることができる。旅行は必ず団体をつくり、帰着の日時を明記した市長の証明書を携帯する。

旅行には馬車1台と世話をする奴隷一人がつけられるが、婦人でもいない限り邪魔であり重荷にもなるので送り返すのが常である。何も身に携えていかなくても、行く先々は自宅と全く同じであるので、不自由がない。同じ所に1日以上滞在するときは、誰でも自分の専門の仕事をはじめるし、職人仲間から親切にもてなされもする。

なお、許可を得ていない場合や、市長の証明書を持っていない場合は、連れ戻されて厳重に処罰され、それが二度あると罰として奴隷にされてしまう。

交易

自分自身たちに必要な物資を二年分貯えることができれば、ほかの国に輸出することになる。輸出する品目は、穀物・蜂蜜・羊毛・亜麻・木材・茜草・紫色に染めた獣皮・蠟・獣脂・皮革および家畜類などである。このうち七分の一はその国の貧乏人たちにただで与える。逆に、輸入するものは鉄のみである。したがって、差し引きで巨大な金銀が蓄積されている。蓄財は国内で使う方法がないので、他国に貸したり、戦争をしたりするときに利用される。

金銀の価値と蓄積方法

彼ら金銀を用いないのではない。ただその用い方が金なら金、銀というものの本性にふさわしいように、本来の価値以上に評価しないで用いているだけである。例えば、鉄がなければ水や火がないのと同様、われわれは生きてゆけないが、金銀には、生きてゆくためにはどうしても不可欠だと思われる用途は認められない。だからといって、下手にこれらの貴金属を塔の中などに仕舞い込んだりすると、これは、市長や市会の連中が悪巧みを始めて、一般庶民を欺き私利をいとなもうとしているのだ、などと疑われないとも限らない、かといって、美しい什器類をつくってまさかの場合いつでも鋳つぶして使おうとしても、一度愛玩し始めたものはいざとなれば手放せなくなるのではないかという危惧がある。

このようなことを考えて、かれらは、金や銀で便器という汚い用途にあてる雑多な器具をつくることになった。さらに、奴隷を縛るのに用いる足かせ・手かせの鎖や、罪を犯したものが耳につける耳飾りや鉢巻などにも金銀が用いられる。こうして、金銀は汚いもの、恥ずべきものであり、真珠や宝石も赤子の玩具程度の価値しか認められないものとなった。


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