トマス・モアのユートピア第2章[彼らの生活と交際について]

家族のなりたち

都市は一家眷属からなる世帯でなりたっている。女子は法定年齢に達するとたいてい結婚して婚家に行く。男子は子々孫々に至るまで自分の生家に留まり、最年長者である家長にしたがう。ただし、家長が老齢で耄碌すれば、その次の年長者が家長となる。

妻は夫に、子供は親にそれぞれ仕える。年少者は年長者に仕えるのである。

人口増に伴う国土政策

市民の人口が一定数以下に減ったり増えたりしないように、どの世帯も14歳前後の子供をひと時に少なくとも10人から16人常に持っていなければならないことが法律で決められている。もっと小さい子供については数の定めはない。大世帯の家は余計な人数だけ小家族の家へ廻す。

もし市の全人口が一定の数を超えた場合、過剰な人々を他の都市の人口不足に充てる。それでもユートピア島全体にわたって人口過剰をきたす場合には、各都市から一定の市民を選んで、人は住んでいるが荒れ果てた土地の多い近くの陸地に送り、移住者たちの法律の下に町を建設させる。ユートピアからの移住者はよく働くので、無用無価値であった土地を沃野にし、原住民も福祉を増すことになる。

原住民がユートピアからの住民を拒むことがあれば、原住民をその領域からおいはらってしまう。もし原住民が反抗し暴動を興せば、ユートピア国は戦いを開く。なぜなら、ある国の国民がその土地をただ無意味に遊ばせているくせに、自然の法則にしたがってその土地によって生活しようとする他の国民にそれを拒むことは、これこそ戦争のもっとも正当な理由と彼らは考えるからである。

なんらかの原因でユートピア本国において人口減少が生じた時、外地にある自分たちの都市から市民を呼び出すことがある。本国が人口減少するより外地の都市がつぶれる方をよしとするからである。ただ、建国以来、悪疫の大流行によって二度だけしか起こっていない。

市場と食生活

どの都市も4つの区に別れ、各区の中心にあらゆる種類の品物を扱う市場(マーケット)が立っている。そこに、すべての家族の生産品が持ちこまれる。この市場に並んで食料品市場が立っており、野菜・果物・パンのみでなく、食用に処理されたあとの鮮魚や鳥獣類の肉がならんでいる。屠殺・精肉は市外の指定の場所で奴隷によって行われており、市民がそれを見ることはない。なぜなら、屠殺は人間性の最も高尚な感情である憐憫の情を少しずつ傷つけ仕舞いに無くすものであると考えるからである。

市場にあるすべての物品、食料品は、各家族の戸主が、家族分を含めて、必要なだけ自由に持っていく。お金もいらなければ、交換するものも、抵当も担保もいらない。すべての物資が豊富にあってしかも誰もむさぼる心配がないからである。

街路には大きな会館(ホール)が一定の距離の元に建てられ、家族長の住宅となっている。会館の左右両側に15軒ずつ、合計30軒の家族の住む家が付属する。昼食と夕食のきまった時刻に全区民がそれぞれの会館にあつまり、共に食事をする。個別に市場へ行って食材を持ち帰って自宅で食事をすることも可能だが、かなり無作法なことであり、そもそも、会館では自宅でつくるよりはるかにおいしい御馳走がたべられる。乳母はめいめいの赤ん坊を連れて別々にその目的のために定められた部屋にいる。

料理は家族の婦人たちが順番に引き受けている。食卓は壁際に男性が、それに向かい合って女性がすわる。家族長夫妻が上座食卓にすわり、各テーブルには長老と若者が同席するように座る。ごちそうは長老から先に配られる。

食事は良き行儀や徳に関する文章を少し読むことから始まる。夕食には必ず音楽が演奏され、食後には菓子や糖菓とともに、芳香をみたすなど、一同の気分を爽やかにするためのことをおこなう。

なお、田舎では人里離れて生活している人たちが自分たちの家で食事をとっているが、市民たちが食べているのはそれらの人達が耕作・畜産したものであるのであるから、彼らも何一つ食料品に困っていないのはおのずと明らかである。


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