ケヴィン・ケリーのFlowingを基にしたメディア理解

WIRED創刊編集長ケヴィン・ケリーはあらゆる情報やモノはそれを構成する最小単位まで分解されて、コピーされ、流動化されて再構成される世界の流れをFlowingとなずけ、その段階を4つに分けて示している(ケリー、2016、pp.108)。

  1. ・固定化/希少:最初は専門的な技で作られる希少なもので高価である。
  2. ・無料/どこにでもある:大量にコピーされたものはコモディティとなり限りなく無料に近づく。
  3. ・流動的/共有される:プロダクトは分割(アンバンドル)化され、各要素が流動化し再構成(リミックス)される。
  4. ・オープン/なっていく:無料化され、分割化された要素を専門性をもたないアマチュアが再構成し、斬新な製品カテゴリーを創り出す。

2~3の各段階とも破壊的な変化を引き起こす。2においては、価格が無料に近くなることで経済的混乱、3はリミックスのためのプラットフォームに富が移行すること、4の段階ではアマチュアを含めたあらゆる人がイノベーションに参加する機会を得る。Flowingはモノを含むあらゆるプロダクトで出現していくと預言されているが、情報の世界ではすでにあらわれ、上の3つに指摘された混乱が生じ始めている。

ヴァイディアナサン(2012)はgoogleが引き起こしている問題の一つとして、商業メディアのコンテンツを引用して作られる二次サイトでのいわゆる「ただ乗り」を指摘した(pp.51)。これは、多くのブログが大手の商業的サイトから得たテキストを再使用しており、GoogleAdsenceによって収入を得ていることから主張されている。上にある2の変化すなわち記事がオープンにweb環境に置かれることによって、無料でコピーできるようになったこと、そして、3の手軽にリミックスができるプラットフォーム(ブログシステム)に富が移行していくことを表している。

田中ら(2014)は近未来のメディアの研究において、ヴァイディアサンを援用しながら、情報提供者間の競争が激しくなるとメディア上での情報がより過多となり、キュレーターのような情報収集・拡散の役割を担う者がより重要になり、よりわかりやすく提供された情報の価値が上がると予測している。これをFlowingの4段階に照らし合わせると、3のリミックスの価値を示唆したものと理解できる。

論を進めて、では、4の段階に進んでいるのだろうか。それは2016年秋に社会的問題となったいわゆるキュレーションサイト群がその一つであると理解できる。それらのサイトの執筆者はクラウドソーシングを経由して集められたアマチュアライターまたは、インターンと称されるアルバイト学生だといわれている。無料化され、分割された材料を前に、一定のコンテキストを与えられて文章に再構成していく。この作業がキュレーションメディアと言われる新しい製品カテゴリーといえる。

キュレーションサイトの問題が顕在化した理由をFlowing4段階から見直すと、次の事が言える。

医薬事情報で不適切があった事例については、Flowingの第1段階に特色があったと理解できる。医薬情報は極めて専門的領域であり、医療方法、薬事情報はあまりに希少でありweb環境に表出することは多くない。そもそも医薬情報の流出に関しては法律で規制がかかている。したがって第2段階でコモディティ化出来るほどの情流は生成できず、仮に流れが出来たとしてもそれは、不確実ないし虚偽の情報が含まれてしまうことは避けられない。

また、写真が流用されて問題になった事例については、もともと写真という同一性保持がなされやすい、逆に言うと要素分解されにくいものはFlowingには向かないから起こったと理解できる。ただ、写真もそこに写った樹木とか、川のせせらぎとか、猫のひげとかの要素に分解されて流動化の後に再構成されるようになれば、同じように著作権を主張することができるだろうか。

商業メディアは、Flowingの4段階を理解して事業の再構築をしなければならない時代である。


[参考文献]

  • ・ケヴィン・ケリー、The Inevitable: Understanding the 12 Technological Forces That Will Shape Our Future 『<インターネット>の次に来るもの』、NHK出版、2016
  • ・シヴァ・ヴァイディアナサン、The Googlization of Everything:AND WHY SHOULD WORRY 『グーグル化の見えざる代償』インプレスジャパン、2012
  • ・田中洋「2020年のメディアとコミュニケーション」『未来が作る広告』吉田秀雄記念事業財団、2014、pp.7-21

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