「メディアの苦悩(長澤秀行編著)」を読みました。

メディア業界で 禄を食む一人として、これからメディア業界はどのようにして喰っていくかという課題を置いて読むと、第七章での東浩紀氏へのインタビューにおける洞察はその解決へのひとつの方向性を示唆しているものだと理解したことであります。



" 今の日本社会では、資本を集中させることに対して警戒感が強い。とにかく透明で、等身大で、パッと書いて、安い値段で売れる(メルマガのような)あり方が、なにか清廉潔白であるかのような雰囲気になってきている。205頁"

" 特にジャーナリズムに関して言うと、今の日本の出版業界でもネット業界でも、ジャーナリストに取材費を100万円ポンと出せるメディアはほとんどなくなっ ていると思うんですよ。元々、出版社は、売れるコンテンツで資本を集中させて、一方では社会的意義のあるコンテンツや、面白いものに化けそうなコンテンツ に投資するーーーー言わば再配分のシステムだったわけです。出版社以外も、メディア全体がそういう装置になっていた。207頁"

"いろんなものが可視化されることでやりにくくなっている。208頁"



メディアに限らず、投資するという思想がなければ、事業は成り立たないのは言うまでもありません。

現代ビジネスの「佐々木紀彦×松浦茂樹×瀬尾傑」対談に、メディアと投資の関係について指摘があります。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39334?page=3

"スマートニュースは一銭も儲けていないけど、4億円以上を調達している。投資家が将来性を評価しているからですね。"

佐々木紀彦氏驚きの転職先「ニューズピックス」を運営するユーザーベース社もGMOベンチャーパートナーズから出資を受けていることが公表されています。

http://www.gmo-vp.com/focus/uzabase.html

テレビ局は多くが株式公開しているので、資本とその投資と投資効率は外部の目にさらされています。したがって、投資に対する姿勢は少し違うのかも知れません(株主総会で放送局やめて不動産業に集中しろと株主提案受けた局があったくらいですから)。

雑誌作りも月刊誌なら月締めで収支を見ているから、収支意識は高いでしょう。

ジャーナリズムの砦、ジャーナリストの孵卵器として期待されている新聞社は、他の商業メディア社を圧倒する資産を持ち、投資余力も多いはずです。

「投資」→「収益」→「再投資」というサイクルが一番行いやすい環境にいる(はず)。ネットメディア事業であれば、新聞事業に比して規模も小さく(資産投資はいらないし)リスク投資もできる(はず)。

新しいメディア(情報流通基盤)に対する投資を通して、自らの言論を正しい社会造りに反映していく。ジャーナリズムとアクティビズムが表裏一体であった、新 聞業の本来の姿を新たにめざすことが、日本の情報環境全体を次のステージに進化させる一つの、そしてもっとも重要なキーポイントになっていると考えます。

「メディアの苦悩」は、トラディショナルメディアとネットメディア。マスメディアとマンメディア。パブリッシャとアドバタイザ。そういったメディア側にいる人たち28人の多様な視線の今を、固定化しています。

メディア業界全体への広い視野を持つきっかけになるものとして、多くの人の目に触れてもらうことを期待します。



※長澤秀行氏と私はFacebook上の友達関係であり、業界もごく近い関係でありますが、この文章を書くに当たって特定の委託・受託関係にはありません。また、二人の間に献本などの経済的行為は無いことを書き添えておきます。

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