インターネットの次のフェーズ:3層構造システムと情報環境

3層構造システムは、「プレゼンテーション層」(ユーザインターフェース)、「アプリケーション層」(ビジネスロジック)、「データ層」(データベース)の 3つの階層に分けてコンピュータシステムを構成する技術で、webシステムが一般的になった、1990年代後半に一般化されたコンピュータ利用技術です。

3層構造システムの発展は、インターネットの普及と表裏一体であることは、言うまでもないのですが、広く社会に対するインターネットのインパクトをそのフェーズに沿って説明するのに使えるのではないかと、考察を試みることにします。

「データ層」

イ ンターネットが世に出てWWW上に分散化されたデータの存在と、それらの多岐に渡る情報が、パソコン画面上で表示される環境というものを人は初めて経験し たわけです。それまでの世界観では、「情報はどこかに貯まっているので、その情報に触れるためには貯めている場所へ行かなければならない」というのが常識 でした。


「人間の智」は「図書館か博物館」に集積されており、それに触れるためには、そこに出かける必要があったわけです。インターネットが現れて、いわ ゆる「アトムからビットへ」という構造変化が起こっても、人がディスプレイで手に入る情報「データ」に対して信頼を持つまでには、幾らかの時間がかかった と思います。


例えば、wikipediaの信憑性についての議論とか、2ちゃんねるへの過度な反応は、インターネット上にある「データ」が、今までのデータ(選択され、 整備され、権威付けされた物)と違う性質を持つもとして扱われたことに起因すると考えられるでしょう。そして、初期においてはインターネット上のデータを 「取るに足らない」ものとして、扱われたこともあります。


イ ンターネットにあるデータがそれまでのデータと同様に価値づけられたものとして人々が認識するのは、web2.0が提唱された2005年の頃であると考え られます。このころには、CGMも一般化し、googleなどの検索サービスも人々の要望に応えるほどに精度をあげていたので、もはやは、インターネット 上にあるデータの価値について議論することも少なくなっていました。


インターネット上もリアル世界と同じように「正しい情報はただしく、胡散臭い情報は胡 散臭い」と判断されるようになったのです。


「アプリケーション層」

データへの一定の評価が定まるとともに、インターネット上のアプリケーションに対する信頼性が高まることになりました。クラウドコンピューティングサービス も、マルチデバイスアクセスサービスも、SNSを代表とするしたマルチクライアントデータ共有サービスも、データ層への信頼評価が定まったから、広く利用 者を増やすことになってきたと考えられます。

(ここでいう評価は、あくまでリアルの世界程度の信頼性があるというレベルでインターネット上のデータがリア ルより高信頼であるということではありません。)


web2.0 で定義された大きな機能の一つとして『共有』と『連携』があります。いわゆるwebサービスと呼ばれる、インターネット上の様々なサービスの多くは、 APIを公開することで、他のサービスと連携し、あたらしいサービスを提供(マッシュアップ)することができます。

マッシュアップの代表的な礼として、google MapAPIを利用して、多くのサイトで、自社近辺の住所を表示したり、観光地図を作ったりしています。


そこでも基本的にデータに対する信頼性がなければ、いくらいろいろなデータが連携することで新しい価値を見出すと言っても、あまり説得力がありません。

デー タに対する信頼性が定まると同時に、アプリケーションの信頼性も高まってきたことで、人々はインターネットに接続された様々なデバイスを利用して多くの時 間を「Wired」な状況で過ごしています。今、こうやって文章を打ち込んでいるのは、googleドキュメントというwebサービスであり、私がこのア プリケーションに対して信頼を与えているからこそ利用しているわけです。


信頼に足るデータ層の上に展開されるアプリケーション層の安定性が多くの人に認められ、その結果facebookのように、twitterなど他の多くのア プリケーションと連携協調するサービスが「実名制」で提供され、利用されるようになってきたのが、2010年末の状況だと考えられます。


「プレゼンテーション層」

世界初のWorld Wide Webシステムが出来上がって*からちょうど20年の2010年、インターネットは着実に情報空間としてのインフラになってきたのですが、これからの展開 は 3層構造システムのおける「プレゼンテーション層」へレイヤーが移ってくることだと予測されます。


3層構造システムの定義を使えば、プレゼンテーション層は、ユーザー・インターフェイスの部分を実現するものとなります。そして、データ層、アプリケーション層とは独立に、設計されうるものです。また、ユーザーインターフェイスは、システムと人との間にあるものですから、システムに触れる人に合わせて最適設計するべきものです。


銀行のATMを例にとると、お年寄り向けには文字のサイズを大きくするとか、慣れていない方のための説明文を用意する、逆に使い慣れた人には画面を簡素化するとともに、振込先の自動登録・呼び出し機能を追加するといったユーザーに合わせた画面設計が必要となります。


携帯電話のインターフェイスでは、らくらくフォンのように、よく使う機能(1電話機能とメール機能)を中心としたメニュー作りと文字サイズを設定して、細かい機能は、思い切って使いにくくしてしまう、といった考え方がプレゼンテーション層の設計には必要です。


ユーザーインターフェイスの設計には、ユーザーに対する深い理解、いわゆる"User Insight" と、システムを利用することによって、ユーザーが得られる「価値」、すなわち"User Experience"の定義と、それに向けた最適な設計が必要です。


逆に言うと、これからのインターネット情報環境でのビジネスにおいては、ユーザー体験を最適にコントロールできるサービスが選ばれていく、ということになるのではないでしょうか。

人は、サービスを利用するときに、たとえそれが初めて利用するとしても、自分にとっての「価値」を想定して使い始めます。そして、想定された価値以上の価値を得られたときに、「また使おう」と継続的にそのサービスを利用することになります。


これまで以上に、ユーザー毎にカスタマイズしたサービス提供がこれから現れてくることだろうと、推測します。




*1990年、スイスの素粒子物理学研究所・CERNの研究員であったティム・バーナーズ=リーは、当時上司だったロバート・カイリューらの協力によりWorld Wide Webシステムのための最初のサーバとブラウザを完成させる。

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