KYOTO CMEX 2010 角川歴彦講演「クラウド時代とソーシャル化する社会」

「KYOTO CMEX2010Kyoto Cross Media Experience 2010

コンテンツビジネスセミナー 123

第4回

平成22123日(金)
講演 15:0016:30
「クラウド時代とソーシャル化する社会」

株式会社角川グループホールディングス
取締役会長 角川歴彦 氏

この文章は、講演に参加されていたtsuda氏panypony氏のTLを中心にして、構成したものです。筆者は現地に参加していませんでした。

CMEXというセミナーは角川会長が政府に強力に働きかけて実現したもの。CMEXの生みの親、という紹介で講演がスタート。


【はじめに:角川映画「源氏物語」について】


角川グループは、角川書店を中心に出版や映画などを立ち上げてきました。


今は角川映画で源氏物語を製作中です。映画『源氏物語』は201112月公開に向けて撮影中で、一昨日、平安神宮でまさに最後の撮影が終わったところです。源氏役は生田斗真君にお願いしました。かれは、僕の思い描く光源氏を体現してくれるのではないかと思ったのです。藤原道長役は東山紀之さん。紫式部役に中谷美紀さん、あとはこの映画のオリジナルな要素として安倍晴明役に窪塚洋介さんにお願いしました。


紫式部が源氏物語を書いている、というシーンからこの映画はスタートします。紫式部が見ていた世界をオープンセットで再現して、専門家の先生にも感動していただいきました。青海波のシーンは京都では撮影できなかったので、岩手県で撮影しました。それは女官たちが『なんと美しい君たち......』とため息を漏らすシーンです。私の発明で安倍晴明を登場させた‥ということで源氏物語の話からさせていただきました。(青海波のシーン、クモの衣装を来た田中麗奈さんなど映画の撮影をスクリーンで紹介)


【時代は半年スパンで動いている】


ここから本題です。今年(2010年)、3月に「クラウド時代と<クール革命>」を出版しました。編集者はこの書名では堅くて売れないのではと心配したのですが、発売前に本文をwebで全文公開したら、9日間で3万件のアクセスがあって、多くの人が興味もってくれた事実に私は感動しました。この中で2014年に世の中は大きく変わると書きました。


この本で<クール革命>という言葉を使いました。現代の日本は、大衆がパソコンを通して自分の意見を言うようになっています。昨年の政権交代もそうした大衆の力の変革もあるのだと思います。大衆が自分の力を自覚して自らの意見を言うようになり、民主党が政権を取った。こういった、大衆の革命をあえて私はクール革命と表現したのです。今は、大衆が世界を動かしていく世界なのです。


ただ、3月に本を出しましたが、そこから半年で大きく時代は変革しています。いま、改訂版を出すなら、クール革命でなく、ソーシャル革命と書かなければならないと思います。クラウド時代も第二世代になったといわれているように、時代は半年ごと位のスパンで動いていると私は思っています。そういった時代の流れの速さを皆さんも自覚していただきたいのです。


時代の流れの速さについては、こんなことも起こっています。


ご存じのように、ソニーはGoogleTVを開発しましたが、Googleはオープンな会社なので、基本的に自分で作ったものを開放する方針です。その方針のためにソニーは半年間しかGoogleTVを専売できない、ソニーのチップもいずれ公開するという約束をしているのです。1年も経てばどこでもGoogleテレビを開発できる。ただ、それには理由があります。


私はGoogleと会社は冷たい会社だなと思ったのですが、Googleに言わせると新しい技術は、一年が限界なのだそうです。 Googleからすれば、半年間ソニーに専売期間を与えるのが精一杯という認識を持っている。チップや技術はすぐに陳腐化する。今、世の中は半年間というスパンで動いており、半年で大衆の気分やライフスタイル、世論の潮目が変わっていくと、googleは見ているのです。だから、ソニーがgoogleTVを専売出来るのが半年なのです。そんな、時代の流れの速さをを皆さんに認識してもらいたいのです。


【2011年を占う】


さて、2011年はどんな年になるのかな?ということを話してみようと思います。そのためには、2010年を振り替えってみる必要があります。まず第一にiPadなど電子書籍元年。第二に尖閣諸島での海上保安庁撮影ビデオの流出などYOUTUBEやニコ動のマスメディア化。そして、Twitter FaceBookのソーシャルコミュニケーションの定着。この3つがメディア・コンテンツにおける2010年の大きな流れだったと思っています。


メディアとエンタテインメントをめぐる世界規模のサバイバル戦争が始まった】


まず、電子書籍の話から申しますと、2010年はiPadKindleの発売で、電子書籍をコアとする、百花繚乱の端末戦争が始まったといえます。KindleiPadは一緒のものとは言えません。Kindleは電子書籍のみの専用機。それに対してiPadは何でも利用できる多機能機です。スティーブン・ジョブズはiPadが日本で電子書籍のリーダーとして紹介されることに不満を持っていると聞きました。


それはそれとしても、日本国内では、シャープやソニー、東芝がリーダーを出し、パナソニックも来夏に出すといいます。富士通やNECなどの情報システム系、キャリア系、台湾韓国系も参入してきています。この年末には、既に混乱の中で、電子書籍とiPhoneなどのスマートフォンの境目が見えにくくなってきています。今までは、モバイル機器のメーカーは携帯3キャリアの下請けだったわけですが、今は対抗軸として出て来ている。今までのような 蜜月から競争関係に移るのではないかという感じがします。


そして、メディアとエンタテインメントをめぐる最終戦争に向けて、世界規模のサバイバル戦争が始まったのが2010年だろうと私は見ています。そこには同時に、新事業チャンスが生まれていて、それぞれのプレーヤーが自分たちが出さないとそれに乗り遅れてしまうという危機感をもっていると捉えるのがいいだろうと思います。


ただ、消費者からすると、これだけ百花繚乱状態で、全部の端末を買うような人はいないでしょう。どんな専門家でもこんなにたくさんかいりませんよね?。私でも、いろいろな端末の中で、iPadGalaxy、そしてKindle、それくらいあれば欲しい電子書籍の端末はほぼ事足りるだろうと思っています。それは、いくら巨大な市場があるといっても、端末メーカーは大きなリスクを背負って走ろうとしている状態だとも言えるのです。


『告発の時代』なう


次に、今年の2番目の特徴。それは尖閣ビデオ流出とニコニコ動画のマスメディア化に関してです。海上保安庁の人間が告発をしようとしたときに、先にCNNに出したという話もありますが、新聞やテレビでなく、ネットを選んだという事実が重要で、ここに私は時代の変わり目を感じています。


今の大衆の気分としてネットに投稿する感覚が当たり前で、仮に新聞社やテレビ局といったマスメディアに投稿しても取り上げてくれないんじゃないか、と思っている人が多いのではないかと思います。仮に取り上げられても自分の考える"事実を多くの人に知ってほしい"といった文脈では取り上げられない、と感じている。


案の定、マスメディアはYOUTBEにビデオが公開された後、すぐに犯人捜しを始めました。それよりも先にマスメディアは知る権利の話をすべきだったと思います。この会場の皆さんで、海上保安庁の方と同じ立場に自分がいらっしゃったとして、マスメディアとYOUTUBEのどちらに流されるか、挙手を願いします。(参加者挙手)


マスメディアという人はほとんどいらしゃらない。どうせ取り上げてもらえないんだろうなあと暗黙に思っていらっしゃる。と同時に、大衆は加工せずに生のものをみたいと思ってらっしゃるからこそ、YOUTUBEで公開したいと思われる。


ソーシャルメディアが当たり前の社会になって、大衆は加工編集された情報より、生の情報ソースが見たいという欲求を持つようになったのです。小沢一郎さんがちょっと前に政倫審に関するメッセージを出す場所として、テレビを排除してニコニコ生放送を選択しての記者会見を行われた。これも加工編集されたくないという小沢さんの意向を受けてのものなのです。


警視庁の内部資料が流出したり、Wikileaksに国防省の資料が流出したりしています。これらは情報の流出事件です。これは何を意味しているか。それはいわば今の時代が、『告発の時代』になったということなのです。国は企業に告発しろということを奨励しながら公務員には情報を流出させるな、という。この時代はそんな論法は成り立たない。ソーシャルメディア社会というものの1つの象徴は告発の時代になったということと、大衆の関心がマスメディアからネットメディアになっているということなのです。


ただ、付け加させていたければ、GoogleGmailを使った人の内容を検索して、広告表示などに使っています。Gmailを使っているということは、情報が植民地化しているということでもあります。3月に出した本ではそのあたりの問題も指摘して、IT安全保障ということを考えるきっかけを作れたと思っています。


既に時代はWeb3.0時代


さて続いてtwitterFacebookなどのソーシャルメディア・ソーシャルコミュニケーションの定着・拡大とについてお話をします。現在、世界最大のSNSFacebookです。2004年に生まれたこの新興企業は今、グーグルの最大のライバルになっています。世界のユーザーは5億人。日本はたった100万人ということですが、 5億人ということは、Facebookの中に5億人のコミュニティがあると理解してもらえばいい。先ほどグーグルはプライバシー侵害をしているのではないかと申しましたが、Facebookによるプライバシー侵害・流出はグーグルの比ではないという指摘もされています。言い換えれば、facebookが持っている個人情報は先ほど言ったGMailの比ではないと想像できます。


Facebookのサクセスストーリーが最近映画化されました。この映画を見ればソーシャルネットワークというものがどういうものかわかると思います。同じSNSでいうと、日本ではmixigree、モバゲータウンはそれぞれ2000万人強のユーザーを抱えています。Web2.0の時代は100万人ユーザーを集めれば成功と言われました。しかし、日本のSNS2000万。Facebook5億人。既に時代はWeb3.0時代に入ってきているといえます。


ソーシャルメディアを基盤とする社会とは何か。それを理解するには、1980年代が『知識社会』であったということを踏まえる必要があります。当時は『モノから知識へ』『量から質へ』『知識が富を生み出す(特許、著作権)』『マスメディア(新聞、テレビ、雑誌)』ということがキーワードでした。新聞や雑誌は400年くらい歴史があった。テレビが登場したことで、マスメディアというものが生まれ、新聞や雑誌もその枠に入れられるようになりました。


(スライド。「知識社会からソーシャル社会へ」知識社会(1980年代)⇒ソーシャル社会(2010年代))」 ,(スライド。モノから知識へ⇒知識から情報へ。量から質へ⇒量も質も。・知識が富を生み出す(特許・著作権)⇒情報が富を生み出す、製造から知的創造へ(知識人の登場)⇒大衆の数の力らと大衆が自ら主張・創造・マスメディア⇒ソーシャルメディア)」


ソーシャルメディアこそがマスメディアに対抗するもの


2010年から社会は大きく変わりました。『知識から情報へ』『量だけでなく質も』『情報が富を生み出す』『大衆の数の力と大衆が自ら主張創造する』『ソーシャルメディア』といったあたりがキーワードになります。情報はリアルタイム、そして、知識は過去のものです。情報はリアルタイムであることが大事ですから、『知識から情報へ』の現在においては、ツイッターやFacebookのようなものの役割が大きくなっています。以前は情報誌などのミニメディア、クラスメディアがマスメディアの対抗軸でしたが、今はソーシャルメディアこそがマスメディアに対抗するものだと思っています。


アナーキーな話をするようですが、国という形、大会社という形、ヒエラルキーに依存している形が変容していく時代になるのではないかと感じています。,角川グループは今40社あります。これからは小さな会社をどんどん作っていってベンチャー精神をもってやっていかなきゃいけない。規模からは多すぎて、統治の観点からは辟易するのですが、会社もヒエラルキー構造からフラット化していかなければ大衆の意見を吸い上げることはできなくなるんじゃないかと考えています。


ソーシャルコンテンツの成功例の1つは角川グループ傘下の『魔法のiらんど』があります。ケータイ小説投稿で有名ですが、月間PV35億、ユニークユーザーが600万人、累計投稿作品数は200万を越えています。若年層の圧倒的な利用者を獲得していて、男女比は女性が88.7%、男性が11.3%、年齢は1519歳が55.3%を占めてます。ユーザーは中学生と高校生が60%。そして地方での浸透率も非常に高い。全国にいる、彼女たちが胸をときめかせる小説を日々配信しています。


【角川の電子書籍戦略】


では、角川は電子書籍をどう考えているのかについて話を続けます。


この度、Book☆Walkerという電子書籍プラットフォームを立ち上げました。なぜ☆が入っているのか。それは私が電子書籍は宇宙にある星のようなものだと思っているからです。今年は電子書籍元年として話題になりましたが、来年以降は当たり前になってメディアからも取り上げられなくなるでしょう。そうするとたくさん出てくる電子書籍1つ1つの輝きは減っていく。宇宙にある星を誰も地上の人は見てくれなくなるのです。しかし、そんな星たちをどうやったら読んでもらえるようにするかが、電子書籍事業の肝だと考えています。きら星を探せる環境が重要になるのです。


私は電子書籍というのはプッシュ型のメディアだと思っています。既存の書店ビジネスは、お客が本を買うつもりで本屋に来てくれているけれど、偶然購入される本も多い。だから既存書店はプル型ビジネスといえます。しかし電子書籍はほぼ指名買いの世界。だからこそこちらからコンテンツをプッシュしていかないといけないのです。 電子書籍が大量にリリースされて1つ1つの輝きが薄くなるのなら、それらをまとめて星雲にすることで輝きを放つことができるんじゃないかと思い、☆を入れたたのです。


Book☆Walkerの特徴は(1)角川グループ10社が集結 (2)映像グッズなど販売商品の横展開 (3)外部ソーシャルメディアとの連携 (4)外部コンテンツプロバイダーの受け入れ (5)既存書店、販売会社との連携です。今日は皆さんにうれしいお知らせがあります。この講演が始まる1時間くらい前にAppStoreBook☆Walkerのアプリが承認され、AppStoreからダウンロード可能になりました。角川書店・にいな「(iPadのアプリを紹介)カラーの画像が使われたダ・ヴィンチコードなどたくさんあります。是非、 ダウンロードしてみてください。,ニコニコ動画とも連携するなど、外部コンテンツの受け入れてプラットフォームを目指したいと思っています。

http://bit.ly/eXZm2x


【総括として】


最後に、コンテンツ事業者の立場から2010年を総括します。


デジタル端末は今後かけ算のように増えるでしょう。端末が乱立する中Kindleのような専用機よりiPadのような多機能機の方が主流になるのではないかと思います。なぜなら、スマートフォンの躍進で電子書籍専用端末の存在感は薄れているからです。生き残りのキモはストア戦略とコンテンツをどうやって集めるかと思います。ここにもスティーブンジョブズの影がちらついています。今は、いかにしてアップルの成功モデルに近づけることができるかが問われているようです。Web3.0はプラットフォーム戦争です。バーチャル空間では、ネットストアが見えない端末はユーザーから相手にされません。また、100万人単位のユーザーを抱えていない端末はコンテンツ事業者から相手にされないのです。反面、電子書籍はプッシュ型ビジネスなのでスケールメリットがありません。


2014年の勝者はアップルやグーグルのように一体型サービスを提供できる企業だと思います。世界規模のサバイバル戦争の総合プロデューサーはスティーブ・ジョブズかもしれません。ネットとデジタルを理解し、21世紀に吹いている風を最もわかっている彼だからこそ今の時代を作れたのです。こう言うと、ジョブズは偉いなあ、という話になってしまうのですが、iPodで音楽、iTSでネットストア、 iPhoneでコミュニケーション、iPadで電子書籍、そしてAppleTV。複数のデバイスをまたいだ一体サービスが展開されているころは、認めざるをえない事実です。


ただし、アップルの天下は2014年までだろうと思います。GoogleTVのようなライバルも出てくる。しかしGoogleTVが天下を取るかというとそれもまだわかりません。この前Google本社に行って見て来ました。TVが見れる、片側にオンラインのVODが見れる。Youtubeで角川と検索して角川アニメchを見て、当たり前なのだが感動しました。


しばらく前にシリコンバレーのベンチャーの人が、10年以内にアンテナは消えるんだと言っているのを聞いて大きな衝撃を受けました。だからといって、Appleがずっと黄金のリンゴでいられるかというとそうではない。Googleは良い位置にいけれど、すぐにAndroidなどが天下を取るかというとそれも微妙です。シリコンバレーでは新しいOSや端末を統合する革新的なミドルウェアの開発が始まっているのです。この世界では一握りの勝者しか残らないと思います。4社か5社でしょう。1つくらいは日本の企業であってほしいと思うのは、日本人としての気持ちなのです。


今日、こんなことを角川が言っていたなということを覚えておいてもらって、今後の情報産業の変化を考えてもらえればと思います。ご静聴ありがとうございました

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